大腸カメラでわかる病気(写真はすべて当院症例)
大腸がんの発見と予防の双方において非常に重要な検査で、誰もが40歳を過ぎたら一度はすべき検査です。
内容は、下剤で大腸をきれいにした後、太さ10~13mmの内視鏡を肛門より挿入し、全大腸において、ポリープ・腫瘍・炎症・その他異常がないかを直接観察する検査です。検査時間は検査目的や見つかったポリープの数や大きさにより異なりますが、10~30分程度です。
大腸がん
動物性脂肪の過剰摂取や、食物繊維の摂取不足など、食生活の欧米化によって日本人の大腸がんは増え続けています。2014年に行われた調査では、大腸がんが女性のがん死亡原因の第1位であり、男性の死亡原因でも第3位でした。さらに、2020年には男女ともにがん死因の第1位になると予測されています。
大腸がんは早期発見すれば完治が望める病気です。大腸ポリープが大腸がんの原因であるため、ポリープの段階で内視鏡的に切除してしまえば大腸がん予防になります。予防も可能なのに大腸がんで亡くなる方がこれほど多い理由は、かなり進行してしまうまで自覚症状がほとんどないこと、そして一般的に行われている便潜血検査は進行した大腸がんでも陰性となる可能性があります。便潜血検査が陰性でも大腸がんはないとは言えませんし、ポリープなどでは便潜血検査は大部分が陰性となるため注意が必要です。
以上のことから、早期の大腸がんを見つけるためには、定期的な下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)が不可欠です。カメラ検査はバリウム検査と異なり、粘膜を直接観察できるため、早期の大腸がんやポリープをより見つけることができます。さらに、カメラ検査では早期大腸がんやポリープを発見したら、その場で切除することも可能です。
便潜血検査で陰性だと安心してしまうと、大腸がんやポリープの発生を見逃してしまうことになる可能性がありますので、大腸がんリスクの上昇する40歳を越えたら、一度、大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします。
早期大腸がん
粘膜にできた初期の大腸がんです。この段階であれば、内視鏡で切除可能ですし、完治も見込めます。
早期直腸癌の例です。便潜血陽性のため当院で検査した、40歳代の方です。
35mmの大きく顆粒状の扁平な腫瘍(LST-G)です。生検での病理結果は分化型腺癌でした。
内視鏡治療(ESD)で根治できる可能性が高いと判断し、総合病院消化器内科へ紹介とさせて頂きました。
当院での内視鏡切除で治癒切除が得られた症例です。
50歳台女性、貧血精査目的にて上部下部消化管内視鏡検査を行いました。S状結腸中部に8mm程のわずかな発赤を伴う扁平隆起型のポリープを認めました。
通常光では見落としやすいポリープですが、特殊光フィルタ(BLI/LCI)や色素観察(インジゴカルミン)では明瞭に認識できるようになります。拡大観察により早期がんと確認できます。
内視鏡切除を施行、病理結果で早期がん治癒切除(tub1 m0 Ly0 V0 VM0 HM0 CurEA)と判定されました。
進行大腸がん
粘膜より深い部分にがんが侵入した状態で、内視鏡治療で根治は不可能です。リンパ節やほかの臓器への転移を起こす可能性があります。CT検査などを行い、転移(ステージ)を判断した後に外科手術や抗がん剤などの治療が必要です。
大腸ポリープ(大腸腺腫)
良性の大腸腺腫です。放置するとポリープは大きくなり、がん化する可能性が高いため、内視鏡検査時に発見したポリープを切除することで、大腸がん予防につながります。当院では日帰り内視鏡切除が可能です。
虚血性大腸炎
腹痛、下痢、嘔吐、血便などが突然現れる病気です。以前は高齢者に多いと言われていましたが、最近は便秘の酷い若い方にも多くみられます。原因として便秘、動脈硬化(高血圧や糖尿病、高脂血症)があります。重症度に応じて「一過性型」「狭窄型」「壊死型」の3つに分類されます。診断確定および治療方針を決定するために、下部内視鏡検査が必須となります。鑑別すべき他の病気は憩室炎、感染性腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などがあります。虚血性大腸炎はS状結腸から下行結腸に発生することが多く、粘膜の発赤、浮腫、出血、びらん、潰瘍などが見られます。治療は一過性型では絶食・点滴を1週間ほど行うことで治癒します。再発予防に血圧や便秘のコントロールが重要です。狭窄型や壊死型では手術が必要となります。
大腸脂肪腫・大腸粘膜下腫瘍
良性の腫瘍で、発生頻度は約3%とされています。基本的に治療は不要で、定期的な観察を行う必要があります。
大腸憩室症
憩室はポケット様大腸の壁が外に飛び出たもので、内視鏡で観察するとへこんだくぼみとして見えます。憩室ができてしまうと自然に消えることはありません。
約10%の方にあるとされており、内視鏡検査を行うとかなりの頻度で発見できます。動物性脂肪や加工肉の過剰摂取、食物繊維の摂取減少などによって、日本人にも増えてきています。
憩室自体のみでは症状がなく治療を必要としませんが、まれに憩室炎や憩室出血を起こすことがあり、その際は治療が必要となります。写真は当院で止血処置を行った症例です。憩室炎では腹痛が、憩室出血では下血といった症状が現れます。
生活習慣や食生活の改善により、憩室が増えるのを予防することが重要です。
潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる慢性的な炎症です。国の難病疾患に指定されており、患者登録者数は約16~17万人と報告されています。患者数は年々増加しており、発症年齢のピークは20歳代と若年者に多いのが特徴ですが、高齢での発症もあります。
慢性の下痢や下血、腹痛などの症状が慢性的に続くため、消化器病専門医や大腸肛門病専門医による適切な診断と治療が必要です。
原因はまだはっきりわかっていませんが、遺伝、腸内細菌、自己免疫反応、動物性脂肪や加工肉の過剰摂取などが関わっていると考えられており、効果的な治療も登場してきています。炎症をうまくコントロールできずにいると、大腸粘膜が継続的なダメージを受け、大腸がん発症につながる可能性も指摘されているため、下痢が続く・下血があるといった症状があったら、内視鏡専門医や大腸肛門病専門医を受診してください。
写真の症例は20代女性で半年以上持続する下痢、数日前からの高熱と下血を主訴に初診されました。内視鏡検査を施行したところ特徴的な内視鏡所見(全大腸に連続する炎症所見、介在粘膜に正常部分を認めない、深掘れ潰瘍など)から重症の潰瘍性大腸炎(全大腸型)と診断しました。緊急で総合病院へ紹介、入院となりました。
クローン病
クローン病とは、口腔内、小腸、大腸など、消化管のいたるところに慢性的な炎症をきたす病気です。
潰瘍性大腸炎とならび、代表的な炎症性腸疾患の一つとして知られています。
クローン病は、10歳代後半から20歳代の若年者に好発する病気で、発症年齢のピークは男性が20〜24歳、女性が15〜19歳といわれています。
男性と女性の患者比は2:1で、男性の方がかかりやすい病気です。
しかし、2017年現在、性差をきたす原因はわかっていません。日本における患者数は増加傾向にあります。発症に至る詳細なメカニズムは現在(2017年)も研究段階にありますが、もともと体に備わっている自然免疫系の異常反応によって炎症が引き起こされると考えられています。
下痢が続く、腹痛がある、下血があるといった症状があったら、内視鏡専門医や大腸肛門病専門医を受診してください。
写真の症例は30台女性で1年以上持続する下痢を主訴に受診されました。血液検査で低タンパク血症と炎症反応を認め、内視鏡検査を施行したところ特長的な内視鏡所見(縦走傾向で連続性を認めない潰瘍など)および生検(病理)で非乾酪性類上皮肉芽腫が検出され、確定診断に至りました。
大腸メラノーシス
大腸粘膜が黒く色素沈着している状態です。大半がセンナを含む刺激性便秘薬の常用によって起こります。自覚症状はなく、大腸内視鏡検査ではじめて発見できます。刺激性下剤は大腸の粘膜の色の変化だけでなく、長期間使用により薬剤耐性ができ、便秘薬の効果が低下するため多量に内服している場合が多いです。現在、新しい便秘薬も開発されており、便秘薬の変更や見直しが必要です。
ベーチェット病
ベーチェット病は(Behçet’s
disease)は、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。病因、病態について探求されてきましたが、未だに原因は不明です。
遺伝素因の中では、HLA-B51が特に重視されています。右下腹部の回盲部を中心に腸管潰瘍が生じることがあり、腸管型ベーチェット病と呼ばれています。
症状としては腹痛、下痢、下血などが出現し、腸管潰瘍が進行すると出血や穿孔を引き起こし、緊急手術を必要とすることもあります。診断には大腸内視鏡検査が必須で重症度や治療方針の決定にも重要な検査です。
鑑別上問題になるのが炎症性腸疾患、特にクローン病です。腸管病変自体も鑑別に苦慮することがありますが、クローン病では腸管外症状として、関節炎、結節性紅斑、虹彩炎などベーチェット病と共通した症状が見られることがあります。全身的な症状、腸管病変の病理所見など、総合的に判断していく必要があります。
下痢が続く、腹痛がある、下血があるといった症状があったら、内視鏡専門医や大腸肛門病専門医を受診してください。
直腸粘膜脱症候群
外から赤い直腸粘膜の脱出が確認できます。直腸がんとの鑑別が重要のため専門医に相談する必要があります。直腸の粘膜はやわらかく、もろいため、出っぱるだけでなく、粘液で肛門の周りがベタベタする、下着に粘液や血液が付くなどの症状があります。薬などの保存的治療で改善しない時は、手術治療が必要となることもあります。排便時にいきみ過ぎない、トイレは短時間で、硬い便・緩い便にならないように食生活などを改善するなどが必要です。
大腸異物
結腸憩室内異物(魚骨)の一例です。
異物の原因は魚の骨がほとんどです。その他、PTPシート(薬の袋)やボタン電池などがあります。
大部分は喉、食道、胃でひっかかり、のどや食道の違和感、痛みとして自覚されます。
大腸まで到達した異物はほとんど便とともに自然に排出されるため、大腸の症例は珍しいです。
症状としては痛みや違和感が生じます。また途中で詰まることで腸閉塞やときに腸を突き破って穿孔を引き起こすものもあります。
異物は大部分は内視鏡で摘出可能であるが,ときに外科手術が必要になる場合もあるため要注意です。
今回は60歳台の男性です。大腸(上行結腸)の憩室に便とともに魚骨が穿通しています。
鉗子による除去が可能と判断しましたが、除去後に腹膜炎を誘発する可能性があるため、当院では行わず、入院施設のある総合病院へ紹介としました。
直腸カルチノイド
消化管腫瘍でも珍しいもので、10mm未満の場合には転移の心配がほとんどありませんが、それ以上の大きさになるとリンパ節や肝臓への転移を起こしやすくなるとされており、腫瘍の大きさで良性と悪性に分かれるため、治療方法も大きさによって変わってきます。「カルチノイド」は「がんのようなもの」という意味ですが、がんの1種と考えてしっかり検査と治療を受けるようにしてください。